近視進行抑制治療について

近視進行抑制治療のイメージ画像

子どもたちが外で遊ぶ機会が減少し、スマホやタブレットなどを使用する時間が増加することなどにより、世界的に子どもの近視が問題となっています。またその流れにコロナ禍も拍車をかけました。
こうした中、当院では子供たちの近視に対し、近視進行抑制治療を行っています。小さいころから近視のお子様、またご両親が近視のお子様は、近視が進行しやすいと言われています。強い近視があると、将来的に近視性黄斑症や網膜剥離、緑内障などの眼の病気が引き起こされる可能性があります。近視を治すことは難しいのですが、そうしたリスクを軽減するためにも、近視の進行を抑制できればと考えています。

近視進行の抑制方法について

近視進行抑制治療には、主に以下のような種類があります。

  • 低濃度アトロピン療法
  • オルソケラトロジー
  • 多焦点ソフトコンタクトレンズ

マイオピン(低濃度アトロピン)療法

これはアトロピンという薬剤を0.01%または0.025%配合させた点眼薬「マイオピン」による近視進行抑制治療です。アトロピンの点眼は、毛様体筋の調節を麻痺させて、瞳を大きく広げる効果がある薬剤で、小児の斜視や弱視の診断や治療に頻繁に使われているものです。
お子様の近視は、主に眼球が楕円形に伸びる(眼軸長が伸びる)ことでピントがずれる場合が多くあります。近くを見ることが習慣化すると、眼軸長が伸び、近視になりやすく、一度伸びてしまった眼軸長は元に戻りません。アトロピンは毛様体を弛緩させる作用により、眼軸長の伸びを抑えることで、近視の進行抑制に繋がると考えられています。
しかし1%アトロピン点眼(通常の濃度)は、副作用として強い眩しさや近くを見たときのぼやけがあるため、長期に使用することは困難でした。また治療を中断したあとに、リバウンドが生じで近視の進行が早くなることも大きな問題でした。しかし、シンガポールでの研究で、100倍に濃度を希釈した0.01%という低濃度で使用することにより、それらの作用がなく、眼軸長の伸びを抑え、近視の抑制の効果が持続することがわかりました。

マイオピンによる治療の対象となるのは、以下のようなお子様です

  • 軽度~中等度の近視の方
  • 4歳~12歳の学童の方(※)
  • 最近視力が急激に落ちている方
  • 遺伝的に近視が進行しそうな方
  • 近視や乱視以外の目の病気がない方
  • 目薬に対するアレルギーがない方
  • 3カ月に1回の間隔で定期的に通院することが可能な方

※12歳以上の方も対応可能です。臨床的データはありませんが、12歳以上でも近視は進行すると考えられますので、進行抑制の効果が期待できます。

治療方法について

※検査を受けていただけない場合や、点眼薬のみのお渡しはお断りしております。

副作用について

稀に以下のような副作用が出る場合があります。

  • まぶしい
  • 近くが見にくい
  • かゆくなる
  • 胸がどきどきする
  • 眼が赤くなる
  • 喉が渇く

※副作用が出た場合はすぐに点眼を中止し、ご受診ください。

オルソケラトロジー

オルソケラトロジーとは、ハードコンタクトレンズを睡眠時に装着して、寝ている間に角膜に圧力をかけ、角膜の形状を平らにし、焦点をずらすことで視力を矯正するものです。使用するレンズは通常のコンタクトレンズと異なり、内側に複数の特殊なカーブが付いています。朝、同レンズを外しても角膜の形状は一定時間、効果が持続しており、日中は裸眼で生活できるようになります(ただし、角膜の上皮の圧迫には限界があるため、矯正量はガイドラインによると4ジオプトリーまでとなっています)。
またオルソケラトロジーは、近視の矯正にとどまらず、通常の眼鏡やコンタクトレンズと比較して、平均30~60%、眼軸長の延長抑制効果が期待されることが様々な研究から分かっており、また10年を超える有効性と安全性の報告もあることから、比較的信頼性の高い治療法と言うことができます。
レーシックと異なり手術を伴わないため、心理的・身体的に負担が少なく、いつでも治療を中断することができ、中断すれば角膜は元に戻ります。また夜間に大人の管理のもとで装用できることから、年齢の低いお子様で近視進行抑制効果を得たい場合、選択されやすい治療法となっています。
ただしハードコンタクトレンズの装用に抵抗がある場合は、治療が困難なことが挙げられます。また使い捨てのレンズではなく、角膜を圧迫することから、適切な処方や管理をしていかないと角膜感染症などを引き起こし、失明につながる重篤な合併症を起こすこともあります。常に大人の管理の元で、ガイドラインを守って使用することが重要となります。また自由診療のため、初期に費用がかかります。

多焦点ソフトコンタクトレンズ

多焦点ソフトコンタクトレンズは、もともと老視矯正のための遠近両用コンタクトレンズとして知られており、一般的に遠用の球面度数に近用の加入度数が付加されたものです。近年、多焦点ソフトコンタクトレンズを小児期に装用すると、一般的なソフトコンタクトレンズに比べ、眼軸の伸びが抑制されることが報告されました。海外では各社が様々な多焦点ソフトコンタクトレンズを子どもの近視進行抑制のために開発し、オルソケラトロジーに匹敵する有効性が示されはじめています。

多焦点ソフトコンタクトレンズによる治療には、以下のような特徴があります

  • ソフトコンタクトレンズであるため、オルソケラトロジーなどで使用するハードコンタクトレンズに比べ装用時の刺激が少なく、装用しやすくなっています。
  • 近視が強く、オルソケラトロジーの適応範囲を超えたお子様にも適応されます。
  • 1日使い捨てなので、衛生面や管理面でも手間がかからず、比較的安全です。
  • スポーツの時にも使えます。

※乱視の強い方用のレンズはありません。

以下のようなお子様に、多焦点ソフトコンタクトレンズによる治療をお勧めします

  • 近視進行抑制治療を受けたいが、オルソケラトロジーが難しいお子様
  • 小学校高学年以上で、近視の進行の可能性があるお子様
  • 定期的に来院し、検査を受けることができるお子様

※取り扱いに不安があるお子様への処方はお断りする場合があります

様々なメリットのため、諸外国では、子どもの近視進行抑制のために使用される頻度は、低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーを凌ぐ国もあります。ただし、日中に装用するため、目にゴミが入った時などに、自分でレンズを取り外すといった自己管理が可能な年齢になるまでは使用できません。したがって、比較的年齢が高いお子様が対象となります。

併用療法

以上のように、様々な近視進行抑制治療がありますが、どれかひとつを選択するということだけではなく、複数の治療法を組み合わせることも有効です。たとえば、低濃度アトロピン療法単独ではなく、オルソケラトロジーや多焦点ソフトコンタクトレンズを組み合わせることが、効果的であることがわかっています。ただ、当院では低侵襲であり、続けやすいマイオピン点眼療法をおすすめしています。